« 太平記 現代語訳 12-4 千種忠顕と文観の奢侈(しゃし) | トップページ | 太平記 現代語訳 12-6 神泉苑の修復工事 »

2017年9月11日 (月)

太平記 現代語訳 12-5 御所上空に怪鳥が出現、その鳴声は、「イツマデ、イツマデ」

太平記 現代語訳 インデックス3 (その中に [主要人物・登場箇所リスト]へのリンクもあり)

この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。

--------

元弘4年(1334)1月に、年号が、「建武(けんむ)」に改められた。中国・後漢王朝を開いた光武帝(こうぶてい)が王莽(おうもう)を打倒して漢王朝を再興した時に用いた年号である、という佳き例に則り、その年号をそのまま使用した、と聞いている。

この年、国中に伝染病が蔓延、病死者の数は膨大。

のみならず、その秋の頃より、御所・紫宸殿(ししんでん)の上空に怪鳥が出没。その鳴き声はといえば、「イツマデ、イツマデ」と聞こえるのだ。雲に響き、眠りを覚ますその声を聞いた人々は、ことごとく忌み恐れる。

さっそく、諸卿会議が開かれた。

公卿A 昔、中国では、堯帝(ぎょうてい)の御世に、太陽が9個も空に現れるという大異変があったんやとか。そこで、羿(げい)という者が帝の命を受けて、9個のうちの8個を射落としたんやそうですわ。

公卿B そないな前例やったら、わが国にかて、ありまっせ。堀川上皇がまだ天皇位におられた時にな、化け物が御所に出没して、陛下を悩ましよったんですよ。ほいでな、源義家(みなもとのよしいえ)が陛下の命を承ってな、清涼殿(せいりょうでん)の入り口で、弓の弦音(つるおと)を3回響かして、その化け物を鎮めよったんですわ。

公卿C 近衛上皇が天皇位に御在位の時にも、ヌエという鳥が、雲の中を翔けまわって鳴きよりましたなぁ。その時は、源頼政(みなもとのよりまさ)が、陛下の命を受けて、それを射落としたんでした。

公卿D そういう前例から考えますとですなぁ、今回もまた、源家に所属の者に命じてね、あれを射落とさせるべきでしょう。誰か適当な人間、おりませんかいなぁ。

しかし、射損じたら生涯の恥になると思ってか、「自分がやってみましょう」と名乗り出る者が全くいない。

公卿A もぉ、しゃぁないなぁ。ほなら、院とか公卿の家とかに仕えとるもんの中に、彼ならば、というようなん、いませんかいなぁ?

公卿E 藤原道平殿が召し使ぉておられるもんの中にな、隠岐廣有(おきのひろあり)いうのがおりますでぇ。あの男やったら、うまいことやりますやろ。

そこで、隠岐廣有に、後醍醐天皇からの命令が下された。

廣有はその命を承って、鈴の間に詰めた。

隠岐廣有 (内心)もしも、その怪鳥が、蚊の睫(まつげ)に巣を作るという、蟭螟(しょうめい)のようにサイズの小さいやつやったら、矢を何本放ってみても、大空遠く飛んでいってしもぉて、もうどうしようもないやろな。そやけど、肉眼で見えるくらいの大きさやったら、しめたもんや。矢の射程距離内に入ってくれさえすれば、ゼッタイ、射落としたるわいな。

このように考えた廣有は、一切異議申し立てをせず、かしこまって天皇の命に服したのである。

廣有は、召し使いに持たせてきた弓と矢を、自らの手に取り、庇(ひさし)の陰に立ち隠れしながら、怪鳥の出現をじっと待った。

--------

時は8月17日の夜、月空はすがすがしく晴れ渡り、虚空は清明。

ところが、にわかに、御所の上空に黒雲一群が懸かってきた。

雲の中から、けたたましい鳴き声が聞こえてきた。鳴くと同時に口から火炎を吐くかと見え、鳥の鳴き声とともにイナビカリが耀き、陛下の座しておられる御簾の中まで、明るく照らし出される。

鳥がいる位置をよくよく見定めた後、廣有は、弓を押し張り、弦をひきしぼり、カブラ矢をつがえて、キッと空中を睨んだ。

天皇は紫宸殿で、その様を凝視している。関白、左右大将、大中納言、参議、弁官、八省次官、諸家の使用人らも堂上堂下に居並び、文武百官はカタズを呑み、手を握り締めつつ、「結果はいかに」と、じっと廣有と怪鳥の双方を見つめる。

いままさに、怪鳥に向かって矢が放たれん、というその時、廣有は何か、考えるところがあってか、カブラ矢の先端からカリマタ鏃(注1)を抜いて捨てた。

--------
(訳者注1)物体に当たると二股に開くようになっている鏃(やじり)。
--------

そして再び、その矢を、2人張り12束2伏の弓につがえ、難なく矢を引き絞った。

弓 ギリギリギリギリ・・・。

廣有はそのまま、再び鳥が鳴き出すのを、じっと待ち構えた。

やがて鳥は、高度を下げて、舞い下りてきた。

紫宸殿の上空20丈ほどの所から、鳴き声が響くようになったその瞬間、

隠岐廣有 ヤァッ

弓 ビュン!

矢 ヒュルヒュルヒュルヒュルヒュル・・・。

カブラ矢は、紫宸殿の上を、鳴り響きながら飛んでいく。

矢 グァシッ!

鳥 ギャアッ!

雲の中で、矢が何かに当たったような手応えが、確かに感じられた。

その直後、大きな岩が空から落ちたかのような、大音響が響きわたった。

物体 ドーーーーーン!

怪鳥は、仁寿殿(じじゅでん)の軒上から二つに折れ曲がり、竹の台の前へ、落下してきた!

堂上で見ている人A やったぁ!

堂上で見ている人B 命中やぁ!

堂上で見ている人C 射落としよった!

堂下で見ている人D さすがぁ!

見ている人全員 射当てたわぁ、見事に、射当てたわぁ!

その後1時間ほども、人々は大声で叫び、賞賛の声は止まなかった。

後醍醐天皇 怪物、いったいどんなんや?!

公卿A おぉい、松明(たいまつ)や!

衛士 ハハッ!

衛士(えじ)の者に松明(たいまつ)を持たせて、落下してきた物体を見てみた。

後醍醐天皇 ウワッ! なんや、これ!

頭は人間のようで、身体は蛇の形をしている。嘴の先は曲がり、鋸状の歯が噛み合っている。両足には、剣のごとく鋭く長いケヅメが生えている。

後醍醐天皇 ウワウワウワーーー。

公卿たち ・・・。

羽先を伸ばしてみたら、さしわたし1丈6尺ほどもある。

後醍醐天皇 おいおい、一つだけフに落ちひん! 廣有、おまえさっきな、矢つがえた時な、急に、カリマタ鏃を抜いて捨てたやろ、あれ、いったいどういうわけやねん?!

隠岐廣有 ハハッ。この鳥、先ほどは、御殿の真上で鳴いておりました。ですので、万一、射た矢が落下してきて御殿の屋根の上に突き立ちでもしたら、これは忌むべき事、極めてまずい、と思いました。それで、鏃を抜いて、捨てたんですわ。

後醍醐天皇 うーん、すごいな! そこまでちゃんと、考えとったんか! すごい、すごい!

その夜、廣有は五位に昇進。翌日、彼は、因幡国(いなばこく:鳥取県東部)中の大荘園2か所を賜った。これぞまさしく、弓矢取りの面目、後代までの家の名誉と言えよう。

太平記 現代語訳 インデックス3 (その中に [主要人物・登場箇所リスト]へのリンクもあり)

« 太平記 現代語訳 12-4 千種忠顕と文観の奢侈(しゃし) | トップページ | 太平記 現代語訳 12-6 神泉苑の修復工事 »

太平記」カテゴリの記事

フォト
無料ブログはココログ